2008年03月28日
留守家庭子ども会無料化案見解
同僚議員の田中しんすけ議員と一緒にとりまとめた見解です。
留守家庭子ども会事業の無料化案(市長案)を支持する根拠
[Ⅰ] 留守家庭子ども会事業は「無料化」が望ましい
① 政策的な観点からみても、無料化は時宜を得ている
(「子育ての社会化」という潮流)
内閣府が発行する『平成17年版・国民生活白書』に結びの部分においては、「子育ての社会化」についての重要性が強調されている。「子育ての社会化」とは、内閣府(2005年)の定義によると「子育てを家族だけの責任とせず、社会全体で何らかの子育てに参加できる仕組みを構築する取組み」であり、親だけでなく子供にも焦点をあてた政策を行い、国・地方公共団体・企業・地域等が一体となって持続的な社会を築くことで社会の構成員全員が次世代を担う子どもの育成に関心を持ち、一人ひとりが本来の子育ての持つ楽しさを取り戻すことが、子育て支援のみならず、女性の社会進出、ひいては少子化対策としても非常に重要である点を指摘している。
また、先日行われた厚生労働省の各都市の関係部局長を集めての来年度方針および予算説明会において、雇用均等・児童家庭局から学童保育事業に関する新しい補助単価が発表された(別添資料:参考①)。この中では学童保育事業を重点戦略の一つとして推進していくこと、今後10年間で学童保育の利用者数を3倍に増やすことが明確な方針として示され、とりわけ「施設規模の適正化」、「開設時間の延長」、「障害児受け入れ」の3分野については補助金を増額することにより政策的誘導を実施することを明らかにしている。
さらに、公的部門を通じた世代間移転をみると、年金財政などを通じて現在の子育て世代は負担超過となっていることから、税や社会保障の負担と給付のバランスを是正していくことも必要である。そのためには、子育て関連施策を総合的にとらえて拡充し、子育てにかかる個人の経済的な負担を軽減していくことが必要であり、それは最近の国の動向から判断しても時宜にかなった政策的潮流なのである。
(いわゆる「受益者負担」は子ども施策に馴染まない)
一面的に子どもを捉えると、その弱さゆえに面倒をみなければならない扶養対象であるが、戦略的な見方をすれば、子どもは将来の年金・医療・介護システムを支える、また、将来の国の発展を推進する貴重な「人財」、「資源」と見ることができる。
さらに、従来子育ては家庭と地域で行われてきたが、近年は社会環境や経済環境の変化(核家族化や地域コミュニティの希薄化)に伴い、家庭および地域の子育て機能が急速に低下している。これを解決するためには、子育ての社会的サポート機能の強化に取り組むことが現実的である。
そういう意味では、「子どもは家族・家庭で面倒をみる」という従来の発想から脱却し、私たち自身の将来を豊かなものとするためにも、社会全体をあげてサポートしていく発想・システムに行政が主導して切り替えていく必要がある。そのことにいち早く気付き、子ども施策に重点的な投資を実行したおかげで少子化脱却や学力向上を実現し、この世界不況下でも経済的繁栄を謳歌しているのが北欧諸国である(子どもに対する投資額は、平成13年OECD調査によると日本が3%、スウェーデンが10%)。
上記の観点からむしろ、子ども施策に関しては受益者の概念を「社会全体」と解釈した上で、通常使用される「受益と負担」の関係とは切り離して柔軟な姿勢で検討・実施されることが望ましい。
なお、そもそも受益者負担という言葉自体がわが国において法制的に用いられたのは1919年(大正8年)の都市計画法が最初といわれており、都市計画事業の事業費に対する財源を受益者負担金として徴収したことが始めと指摘されている。そのような歴史的背景から、下水道企業会計等の企業性の高い活動等で受ける便益と費用負担の対価性を指すことが通説的であり、そういう文脈から本来福祉施策の分野に馴染まないものである。
わが国では小泉改革以来、福祉分野への受益者負担原則の導入が図られたが、障がい者自立支援法における障がい者への一割負担や、介護・医療改革による負担増がいかに過酷なものであるかということを考えれば、福祉分野への受益者負担原則の導入が望ましい施策でないことは明らかである。
② 無料化が望ましい事業を「有料」としていることの弊害
本来、無料化が望ましい留守家庭子ども会事業を有料としていることから、事業自体が歪んだものとなっている。政策的合理性の観点からいえば、利用者の半数近くが減免措置の対象となる制度設計自体が異常である。
また、減免措置という経済的観点からだけでなく、共働き世帯にかかる子育てに対する負担(時間的制約・身体的負担・心理的負担)を軽減するという観点からも留守家庭子ども会事業の趣旨が論じられる時期にあることを認識すべきである。
こうしたことを踏まえると、留守家庭子ども会事業の基本料は、本来子どもを中心に考えれば、親の経済的環境によって差異を設けるべきではなく、子どもは社会全体で育てるという観点から、原則無料化されることが望ましい。
③ 世帯所得550万円以下の世帯でも減免を受けられない層が存在する
留守家庭子ども会事業については減免措置が取られている。具体的にいえば、それぞれ平成19年4月の時点で下記のようになっている。
a) 要保護世帯(147人)
b) 就学援助世帯(3,191人)
c) 兄弟姉妹で入会している世帯(477人)
このような減免措置が講じられていることを挙げて、「所得550万円以下の低所得世帯には減免で対応しているから良いではないか」という意見もあるが、世帯所得550万円以下の世帯がすべて減免対象になっているかどうかが疑問である。
そもそも世帯所得550万円の根拠は、「共稼ぎの夫婦と子供2人の世帯の場合、(就学援助の基準となる)450万円程度、配偶者が市民税非課税となる100万円程度、合わせて550万円」というケース的なものである。例えば、ぎりぎり就学援助を受けられない収入460万円と、配偶者の収入が20万円の世帯収入合計480万円の世帯があった場合、この世帯は減免措置を受けることができない。すなわち、世帯収入が550万円以下の世帯でも減免を受けられない層が確実に存在するということである。また、このような世帯にとって、利用料とおやつ代を含めた年間72,000円を拠出するのは非常に負担が大きい。
このような観点から、利用料負担の公平性が保たれていない現行の利用料有料化を改め、原則無料とすることが望ましい。
④ 無料化は「金持ち優遇」とは言えない
留守家庭子ども会事業の基本料無料化については、「低所得世帯に対してはもともと減免措置が講じられており、その上で原則無料化するというのは金持ち優遇ではないか」という意見も聞かれる。
しかし上記でも指摘したように、現行の留守家庭子ども会事業において減免措置の境目となるのは「就学援助を受けているかどうか」ということであり、言い換えれば「年間所得が454万円(可処分所得でいえば308万円)あるかどうか」という点である。
よって、無料化を金持ち優遇政策だと批判する声は、すなわち「就学援助を受けていない世帯は金持ちだ」と言っていることと同じであり、この批判は的外れであると指摘せざるを得ない。
⑤ 乳幼児保育と留守家庭子ども会は同一の視点で論じるべきでない
(義務教育期の施策は原則無料が本筋)
留守家庭子ども会事業の基本料無料化を取り上げて、「それなら乳幼児保育も無料化すべきだ」という乱暴な意見も聞かれるが、これも的外れである。
そもそも幼児期の保育に関しては、児童福祉の観点から様々な法的整備やそれに伴う措置が細かい部分まで制度化されてきた歴史がある。保育園の入園料に関して、国の指針により細かく規定されているのもその歴史故である。また、児童福祉法第56条の規定により、保育料に関しては「その全部又は一部を扶養者から徴収できる」ことを明確に規定しているところである。
一方、学童保育事業に関してはそのような料金徴収に関する明確な根拠法が存在せず、どちらかといえば地方公共団体の地域事情、特性に配慮した柔軟な料金設定ができる状況にあると解釈される。
また理念的にみても、これが義務教育期の子どもの「放課後の安心・安全な生活空間」を確保するという観点から、親の収入の多寡により施策的な差別が行われることは非常に大きな問題であり、原則無料として実施することが好ましい。
(無料化は、留守家庭利用者と非利用者の間の不公平感を助長させるか?)
一部には、「義務教育期とは言え、留守家庭子ども会事業を無料化すれば、留守家庭子ども会に子どもを預けていない世帯との間に不公平感が生じるのではないか?」という指摘もあるが、その指摘も当たらない。
なぜなら、義務教育期における「放課後の安心・安全な生活空間」は、あまねく等しく全ての学童に保障されるべきナショナルミニマムであると考えるからである。
例えば、一連の障がい者施策に対して、健常者との間で不公平感が生じると指摘する人はまず存在しないだろう。それは、支援無しでは保障されるべき一定水準の生活レベルに達することができない人々に対して、公的な支援を行うことにより健常者と同様の生活水準、すなわちナショナルミニマムを保障する施策だからである。
⑥ 子どもの間に「差別意識」を助長させる恐れがある
留守家庭子ども会事業を有料化したまま、減免措置で対応するという現行の方法は、義務教育期の子どもたちの間で「差別意識」を助長させる可能性をぬぐえない。
現時点においては報告されていないようだが、親同士、または親子間での会話の中に「あの家の子は利用料を減免されている」というような趣旨の発言を子どもが聞きつけ、それを留守家庭子ども会の場に持ち込み、「お前は減免組だ」などというレッテルをはりつけてしまうような事態が生じる可能性があることは否定できない。
このようなことから、親の収入の多寡を子ども社会に持ち込む原因となる現行の減免制度は、義務教育期の「放課後の安心・安全な生活空間」を確保するという観点からは好ましいものではない。
⑦ 第三子優遇制度の所得制限(1000万円)との非整合性
現在本市の子育て施策の一つとして実施されているものの中に、第三子優遇制度というものが存在する。事業の詳細は別添資料:参考③に譲るが、当該事業には8億8100万円の費用が計上されているが、当該事業を受けられる世帯の条件として、「世帯所得1000万円以下であること」が定められている。
留守家庭子ども会事業の減免対象は、世帯収入550万円(本市公表)以下の世帯に留まるのに対し、第三子優遇制度については世帯収入1000万円までが適用されるというこの現状は整合性に欠けるものであり、視点を変えれば、留守家庭子ども会事業の減免対象者が世帯収入1000万円以下とすべきという声が上がっても不思議ではない。
[Ⅱ] 自民党の条例案は実効性が担保されていない
① 学年拡大に伴う必要経費が示されていない
もっとも基本的かつ重要な問題であるが、政策提言をする上で欠かすことができない財源の手当てについて一言も触れられていない。
以下は民主・市民クラブの試算であるが、受け入れ対象学年を6年生まで拡大した場合、約4,000名の児童が増えると考えられる。「放課後児童クラブガイドライン」によると、一教室40名・1.65㎡が推奨値とされているが、この基準でいくと、相当数のプレハブを建設しなくてはならなくなる。一教室あたりの建設費用が約15,000千円と仮定すると、施設整備だけでも約15億円の予算が必要となる(別添資料:参考②)。これに毎年の運営費を加えると、その額はもっと大きくなることは言うまでもない。
これら必要経費の概算や予算確保についてどのように考えているかがまったく示されていない自民党の条例案は無責任極まりないものである。
(プレハブをレンタルすれば費用は低減されるか?)
教室となるプレハブをレンタルした場合、試算によれば年間4500万円と整備費を安く抑えられるが、・・・。
② 事業の実施日が明記されていない
受け入れ児童の増加となると、施設面での整備が必要となるが、その整備時期が明確にされていないことは問題である。必要性のニーズ調査、予算措置、施設整備という流れで進められることを考えると、留守家庭子ども会のサービスの質の向上に向けて、現行サービスの課題を子ども・保護者の実態を把握し、段階的に改善を行った方が現実的ではないかと考える。また、プレハブの設置場所に関しても、どのように配置をするかを検討しなければならず、早急に実施をすることができないと考える。わが会派も受け入れ対象学年の拡大については賛成する立場ではあるものの、その実施に当たっては十分な検討が不可欠であると考えており、施行時期のみならず、実施までに必要な作業手順や段取りについて、方向性すら示すことができていない自民党の条例案は無責任極まりないものである。
③ 学年拡大のニーズはどれだけ存在するか?
対象学年の拡大を実施する上で欠かせない作業の一つに、需要調査がある。すなわち、対象学年を6年生まで拡大した場合、どれだけの加入増が見込まれるかということだが、これについての論議が全くなされていない。わが会派も受け入れ対象学年の拡大については賛成する立場ではあるものの、その実施に当たってはしっかりとした需要予測調査を実施し、その数字をもとに予算組みを行うというプロセスが不可欠であり、これらを全く無視したなかでの学年拡大は無責任と言わざるを得ない。
④ 学年拡大が子どもたちに与える影響について考慮していない
受け入れ対象学年を拡大することに伴い生じる様々な問題と、その解決策について全く触れられていない。小学1年生から小学6年生までの幅広い年齢層の子供を受け入れるとなれば、これまでは生じなかった様々な問題が顕在化してくると考えるのは当然であろう。
その中でも、
a) 4、5、6年生に対する指導カリキュラムの検討
b) 学年拡大に伴う指導員の再教育
c) 幅広い年齢層の子どもたちが集まった際の人間関係のケアの在り方
といった大きな問題については、当局の中でも検討がなされていない状況である。
子どもたちが「安心して生活できる場を整備すること」を第一義的に考えるならば、まずはこれらの点について方向性を示すことから取り組まれるべきであり、逆にこれらの問題について対応策を準備しないままで学年拡大に踏み切ると、従来の留守家庭子ども会事業のサービスレベルを著しく低下させる可能性が高い。それらについて全く触れていない自民党の条例案は無責任極まりないものであり、到底賛同できるものではない。
[Ⅲ] 受益者負担原則を追求すると…
① 本市の他の子ども施策に多大な影響を及ぼす
現在、福岡市においては、「次世代育成支援」という名目のもと、子育て世帯に対する様々な支援助成事業が実施されているところである(別添資料:参考③)。
これら助成事業の中でも、「乳幼児医療費の無料化」、「妊産婦健診の助成拡大」、「乳幼児健診の無料化」、「第三子優遇制度」については、子育て世帯の経済的負担を軽減させるという観点から、福岡市が独自の財源によって実施している施策であり、各施策に投下される予算も、それぞれ30億300万円、4億6600万円、1億5700万円、8億8100万円と、その効果も含めて本市の次世代育成支援の中核として不可欠なものとなっている
(特に、「乳幼児医療費の無料化」および「妊産婦健診の助成拡大」については、「子育て日本一の福岡市」を標榜する吉田市長が実現させた事業である)。
これら事業については、現在、留守家庭子ども会事業の在り方を論じる上で争点となっている「受益者負担の原則」は適用されておらず、また、当該事業において今後受益者負担の観点から見直しを図るべき点が指摘されているわけでもない。
留守家庭子ども会事業に対してのみ声高に「受益者負担原則」の導入を叫ぶ姿勢に対しては、政策的合理性の観点から疑義を呈さざるを得ないことは言うまでもないが、仮にこれら本市の代表的子育て支援事業とも言うべき諸事業に対して「受益者負担原則」が貫徹された場合、どのような状況が生じるか?
上記に挙げた本市独自の取り組みが受益者負担の原則の下ですべて利用者負担となることは想像に難くない。それだけに及ばず、「所得に応じた減免措置」という経済的観点からのみの政策的に偏った助成制度の適用により、(一定水準以上の所得がある世帯の)母親の非経済的負担感の軽減という政策目標はこれからも達成されることはないのである。
② 子ども施策を重視しない都市に未来はない
子育て支援とは、狭義には子どもを持つ世帯の経済的負担を軽減させることであるが、より大きな視点から見ると、子どもを持つ世帯の非経済的負担感(時間的負担・身体的負担・精神的負担)を軽減させることでもある。
また、保育サービスの普及・拡充がなされることにより、そこから母親の出産退社や育児退社が消えていく。そこで女性の就業が継続され、男女の就業面での格差解消に近づく。そこから、企業内での男女平等へのプロセスがスタートする…子育て支援の拡充は、こうした就業形態での男女平等にも大きく寄与するのである。
「仕事も子育ても」という多くの女性が抱くニーズを充足させるということは、安心安全な保育環境の構築、真の男女共同参画社会の実現、本市経済のさらなる活性化といった多くのアウトプットを生み出すという意味においても、社会政策の中の大きな柱の一つであることを忘れてはならないのである。
- by 山下けんじ
- at 05:29
